結局ぜんぶ推しのせい

いろんなことが起きている

向き合う勇気がほしかった『舞台黒子のバスケ ULTIMATE-BLAZE』

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平成最後の舞台がくろステだなんて、天変地異かもしれない。どうしても観たいと思えなかった作品を観る、ただそのために新幹線に揺られている。何もかもがどうしょうもなくてもいい。この作品の中の推しさんと向き合う勇気ときっかけをやっと手に入れた。ただそれだけ。

 

 

すべての始まり。

3年前の春に遡る。当時激烈な推しメンではなかった推しさんが急に2.5に出ることになった。もう2.5観劇は卒業したつもりでいたタイミングと重なり、文字を見ただけで拒否反応を起こしてしまった。言葉を選ばずに話すなら、2.5は青天の霹靂、大地雷だった。彼に対してそんなに真剣でなかった当時の私はこのことに勝てなかった。作品周辺で何か嫌なことがあったわけではないが、徹底的なノーサンキュー。彼のコメントも見ないまま、気がついたらそこから2年間推しさんのことなんか忘れたかのような日々を過ごしてしまった。第2弾が決まったときも、この時期の後ろめたさも重なって心は変わらずノーサンキュー。ライブビューイングすら行かないのはあとにも先にもこれぐらいだった。そして完結編、3回目の出演は決まっていた。最後まで我関せずを決め込んで、私の中ではなかったことにするつもりだった。そんな時に、ある俳優おたくに出会ってしまった。彼女は本当にくろステが好きな子だった。おたく、熱量が高いというだけでもパワーがある。他にもいろんな話をした。彼女の好きな役者さんのこと、今までのこと。意気投合するまで時間は掛からなかった。そして、くろステが大地雷なこともなぜか彼女には話せた。「それでも後悔させないから、観に来なよ!大阪!連番しよ!」文字だけなのに謎の説得力がある彼女の言葉。躊躇ったけれど、行く!と答えていた。今考えると、変な意地を張らないで、この舞台と向き合える瞬間を長いこと探していたのだと思う。

 

そもそも、黒ステ。

www.kurobas-stage.com

natalie.mu

enterstage.jp

ちゃんと探すとパブリックがたくさん出てきてすごい。

今回は3幕構成。1幕、海常福田総合戦、秀徳洛山戦(約50分)。海常誠凛戦(約40分)の2幕。3幕が帝光編と誠凛洛山戦(95分)。長い。休憩2回挟んで3時間半。長い。会場を出た時に22時を過ぎていて、どこの会場でも遠征組は苦労しそうだなと遠い目をしてしまった。実は今回のウィンターカップ編まで原作が読み切れていないので、内容をほぼ知らず。キセキの世代の顔と名前が分かる程度で行ってしまった。ごめん。前作まで「opとedが同じ曲で同じようなダンスをしている」という話だけは聞いていたので、そんな雑演出あるかよとネタにしていたところ、EDは変わっていたので安心した。

部活を題材とした舞台で、強く記憶にあるのは『舞台弱虫ペダル』だ。第一世代のIH3日目に命を燃やしていた頃のことをふと思い出した。比較するわけではないが、思い出してしまった。箱根学園に対して「次は絶対優勝するのだろう。」と毎日毎公演思っていたこと、金城さんや鳴子くんを途中で落とさせないようにするにはどうしたらいいのか、と泣きながら考えたこと。絶対に勝敗が出てしまうものに青春を捧げる、その一瞬一瞬の輝きを久々にお芝居で観た。ペダステは、ハンドルと身体で自転車を表現していたけれど、バスケはバスケットボールを舞台上に出し入れすることと、セット上部の軌道をライティングで表現することがメインだった。もちろん、役者さんの視線の動かし方、緩やかな坂になった舞台の前後の入れ替わりによって様々なシーンを表現していた。シュートは、上下と舞台奥への投げ入れか上部へのエアシュート。エアシュート後のリバウンド表現、攻守交代の認識はわかりやすくもスピード感があり、観やすい。

 

バスケ強豪校帝光中学校の同世代に揃った5人の天才たち。彼らは「キセキの世代」と呼ばれ、驚異的なそのスキルの高さから向かうところ敵無し。それゆえにおよそチームプレーを無視したバスケに走るようになる。その帝光中で「幻のシックスマン」としてパス回しやスティールに特化した選手だったのが現誠凛高校バスケ部、黒子テツヤだった。(ここまでが帝光編)(リーディングもやったけど三幕でもしっかりやる)そんなキセキの世代と渡り合ってきたのが「無冠の五将」と言われる5人だ。そのうち3人が洛山高校バスケ部所属。それは洛山戦大変なことになるよね、、、ここから勝手に今回の試合に関して解釈を始めることにした。洛山高校のバスケ部キャプテンは、セキの世代の帝光中バスケ部キャプテン、赤司征十郎

 

秀徳洛山戦。

絶対王者、秀徳高校。洛山には思った以上にあっさり、そしてフルボッコにされていて、正直気持ちがついていかなかった。宮地、大坪、木村の先輩組にとっては高校最後の試合だった。点差が着々と開き、緑間と高尾によって展開される思い出語り。ここでなんとも言えないが、嫌な予感しかしない。赤司によるエンペラーアイ(相手の動きを瞬時に読み切って、次の手を阻止する技術の強化版…?)が、秀徳の動きを妨げる。赤司は、本来偶発的にしか起こらない相手が転んでしまう現象を、コントロールして引き起こせるようだ。舞台上、キン、と高い音がすると、相手はコートに膝をついてしまう。繰り返される現象に動揺する選手たちの表情が印象的だった。最後まで点差は埋まらず、秀徳のウィンターカップはベスト4で終わった。この試合は両校が出し切って、ギリギリまで削りあった試合に見えなかった。赤司の能力と無冠の五将を抱える洛山の異様な強さを、観客へ植え付けるための試合に見えてしまった。それも余計に辛かった。舞台の秀徳というチーム、終始「4人でひとつ」の見せ方をしている。キセキの世代の緑間を擁してはいるが、そのことを忘れるほどチームとしてまとまっていた。彼らが過ごしてきた時間の長さ、そして深さ。高尾が語る先輩たちとの思い出からも、切実に感じてしまって*1、最後はなんで…?という気持ちでいっぱいだった。初めて観た黒ステは、悲しくて悔しくて辛かった。不撓不屈の旗の元で、応援席に一礼する彼らの表情は四者四様。涙が出ないほど悔しがる彼も、逆に涙が堪えきれない彼も、唇を噛み締め、今にも溢れそうな苦しい表情の彼も、真剣に試合と向き合った高校生だった。あの中に大人がいなくて安心した。客席から自然と拍手が沸き上がり、ひとつの試合が完結する。これも誠意があって美しかった。今までに観てきた推しさんの芝居の中で一番ひどい表情をしていたけれど、「ありがとうございました!」も耐えきれていなかったけれど、その裏に感じる4番ゼッケンのプライドは間違いなく輝いていた。最後まで後輩を、先輩を、思いやる姿もまた、チームとしての美しさだった。

 

そのほかの試合について。

個が立っているのにまとまっている印象だったのは海常だ。無敵のコピー能力を持つ黄瀬を擁するが、負けず劣らず皆キャラが濃い。*2しかし、妙な塩梅でまとまっている。キャプテンの笠松の冴え渡るツッコミに終始笑っていた。また、海常誠凛戦は非常に爽やかだった。キセキの世代同士がライバルだと話をする場面もある。以前の試合の借りを返すと戦う海常と、挑む側から挑まれる側になった誠凛の関係は良好に描かれている。これからも両校はライバルであり続けるのだろう。

誠凛洛山戦は情報の多さが際立った。誠凛もまたみんなでひとつという思いが強いような印象である。洛山の選手たちの技や、赤司の過去や、僕司/俺司の変化が怒涛のごとく展開されるが、原作未読でも全くわからん!と匙を投げたくなるような場面はなかった。それぞれの技、実淵のシュートや葉山のドリブルなど、「すごい技」であることはわかるが実際何となくわからなかった。ドリブル表現、マシンガン音に合わせて観客に扮したキャストたちや周りの選手が打たれるように震えるのは面白い。各学校にとんでもない技術を持っている選手たちがいて、とんでもない技ができるのが特異ではなくなると「仲間と勝つ」気持ちがより浮き彫りになるのが不思議だった。ラスボス洛山を全員バスケでひっくり返す後半の誠凛のスピード感は見事だった。あの八百屋舞台でボールを捌きながら高速のセリフ回しをしていく舞台構成で、それぞれの技量が見えてしまう。想像以上に技術にも体力にも厳しいことをしているが、絶対に勝つという熱量が彼らを突き動かしていた。誰も諦めていない。人事を尽くしていない者などいないのだよ、と緑間も言うが、この舞台は人事を尽くして、一回一回出し切らないと成立しないのだろう。

 

総括。

何度も「どっちが勝ってもおかしくない」と思った。洛山秀徳戦。敗れた学校の言葉に涙し、「もっと一緒にバスケしたかった」と零す彼らは曇りなく青春のど真ん中にいる。様々な種類の2.5次元舞台がある中で、ここまで熱量高く飛ばしている作品も少ないように思う。役者さんの幅もちょっと独特だ。気がつくと真剣に観ているし、熱量に突き動かされる。まっすぐな彼らの姿は輝いている。推しさんが、ではなく、作品としてかっこいい。もっとあっさりしたイメージだったのでとても意外だった。私にとって大地雷だったはずの作品は、想像以上に演劇だった。相手と深く関わることで生まれるものをちゃんと提示している。泥臭く芝居をしているのがとにかく嬉しかった。

 

「何で勝てないんだろうね」と誘ってくれた友人に言っている時点で、私の負けである。前から見たかった〜〜〜〜!!!!と言えるほど前向きではない。いい芝居だなぁとは思えた。でも、ここで仲間と築き上げてきた3年間は、推しさんにとって財産になるのだろう。今後もご贔屓によろしくお願いいします。次は笑顔の1!2!3!秀徳!が聞けることを願って止まない。

*1:これは観てる側の歩み寄りフィルターが含まれると思っています

*2:キャラが薄い学校などなかった