アイデンティティ、きみ。

いろんなことが起きている

彼は神か悪魔か。SAMAELネタバレ考

サステナクリエーションファミリー『サマエル
2018年6月9日〜6月17日(全15ステージ)@キンケロシアター
https://www.sustainer-samael.com

 

 

 

少し応援させていただいている役者さんがご出演されていたので観に行ったのですが、とんでもないものを見てしまいました。稽古ツイ追っている間は「この狭さなに…キンケロシアターってこんなに狭いっけ…」とか「歌とダンスと怒涛の会話劇とか…え…」って思っててごめんなさい。生音楽にダンスに会話劇とかまとまるかよ大丈夫かよって思ってた金曜日の私、それは杞憂だから安心して。あんまりにも楽しくなっちゃった。

 

 

〜 ざっくりサマエルの話 〜
「俺たちは、未来永劫世界の全てを手に入れられるかもしれない」


ある日、科学者であるオキソは"メサイア“という万能の科学物質を作り出した。
オキソの相棒であるローレンシウムと喜びを分かち合ったのも束の間、メサイアを大量生産する為に会社を設立。そして、オキソはローレンシウムにこう語りかける。
「より強固な思想が必要だ。秘密結社をつくろう。」
その秘密結社こそがサマエルだった。


その後サマエルは、世界の食料システムをコントロールしており、メサイアをあの手この手で利用しようとするメンバーが集まっていた。表向きはオキソの「幸福の最大化」に共鳴した者が集まっているとされるが、その実態は謎に包まれている。ユグドラシル社の社長には、オキソの希望によりローレンシウムが就任。そしてサマエルのリーダーはオキソとなり、二人三脚でユグドラシル社やメサイアのビジネス化に成功していた。

また、ローレンシウムには、クロムという妻がおり、同社で広報として働いている。

 

 

メサイアの大量生産と一般化により、農業には大革命が起きた。
農業活性化を求める団体「大地の労働者」を率いる女性リーダー、アルキンもまたその恩恵を受ける一人。アルキンは人生を団体や農業の活動に捧げており、多くの仲間を助ける使命感じながら従事していた。
そんなアルキンの姿に感銘を受け、小説の執筆を進める小説家トリアゾール。二人は、クロムの勧めによりメサイアに加入することとなる。

 

 

メサイアの発明から5年の月日が流れた。

(ここのダンスは、配られた劇中歌和訳と照らし合わせるとメサイアの一般化された社会をイメージしていると勝手に思っている…)

その後もユグドラシル社は順調に業績を伸ばしていた。
同社の頭脳であるオキソはさらなる一手を打つべく、政治家のフェノール、食品業界の重鎮ベンゼン、連邦警察情報部長官のクロリド、政府直下化学戦部局のコバルトと接触する。
ベンゼンには、メサイアを用いた食品保存の長期化、その利用独占権を500億で売却。フェノールとは、サマエルが彼の次期選挙活動に協力することを約束する。その中でクロリドとコバルトは、オキソに「メサイアの軍事兵器利用」を打診する。メサイアを利用することで火薬の量を半減させることができるという内容であった。
ローレンシウムは「軍事兵器」に強い否定を示し、混乱こそするものの、メサイアの軍事利用を決定した。オキソは、動揺する彼に「大丈夫?」と語りかける。その姿はただの友人であったときのよう。

 

ところがある時、メサイアに強い毒性がある事が判明する。

 

安全調査を任されていた医師・セシウムにも気が付けない、蓄積型の毒素が含まれていたのだった。その日まで「安全な万能薬品」とされていたメサイアは数日にして危険薬物となってしまう。このことでメサイアの大量生産を行なっていたアルキン率いる大地の労働者は多数の犠牲を出す。食品保存にメサイアを利用したベンゼンも、自社製品で多数の死者を出してしまう。

 

ユグドラシル社、サマエルの一部メンバーは早急にメサイアの生産停止・農薬の使用禁止を進めようとする。しかし、あろうことにオキソは提出書類の改ざんを提案する。食糧業界に対するサマエルの影響力を利用し、毒性を持たない量までコントロールすると言い出した。「今生産を停止することはメサイアが毒だったと世界に発表することになる。」それがオキソの考えだった。オキソの提案に皆は絶句。彼の元を立ち去ってしまう。

 

支援を受けてサマエルをモチーフとした映画を製作していたガンマだったが公開の予定も立たなくなった。主演女優ウランとともに投獄された。時を同じくして、サマエルの中心人物13名は拘束。拘置所でのぶつかりあいが始まるのだった。

 

ここからは怒涛の会話劇。憤りも絶望も悲しみも、極限の状態でぶつけられる。 立場も年齢も違う。繋がりは「サマエル」に深い関わりを持っていたことだけ。自分を責める者、オキソを責める者、悲しみに暮れる者。反応は様々である。

そしてオキソは彼らに語りかける。悪魔はなんなのか、と。

彼らはここから脱出できるのか。そして、未来は残されているのか。

 

 

 

ねぇ聞くけどさ、さっきまでの歌とダンスってなんだったの。

 

 

 

 


オキソくんとローレンシウムくん


ど頭でお揃いのクロックス履いて出てくるあたりかわいいが洪水。嬉しくてギャーギャーしてみたり、一緒の動きをしてみたり。お前ら仲良しかよ。

「研究オタクでずっと蔑まれてた」「二人は全てを共有していた。(しているはずだった)」「信用できるのは君しかいない」などなど、オキソにとってローレンシウムは唯一無二の存在なことは示されています。でも、信頼する相棒ではなく。オキソにとって欠けている(と自分で感じているもの)を持っているローレンシウムが純粋に大好きだった。ローレンシウムが変わらずに隣にいてくれることは、彼にとってその後も「人であるための支え」で「安心」だった。投獄されて二人がぶつかり合った時に「俺は、お前のそういうところが好きなんだろうな」って言っているオキソくんしんどすぎて吐きそう。「お前が嫌がることはしたくない。」って最後までそういうことを言うのがオキソくんで、それに対して怒るのがローレンシウムです。しんどい。

 

ちなみにオキソは酸素で必要不可欠な存在、ローレンシウムは研究以外に利用方法を見出されていない、そういう物質。そういう関係性。


・オキソくんの3段ギア
オキソくんは2時間の劇中で3段階の変化をする。

①研究者オキソくん
髪の毛もさもさでパーカーにゆるパンにクロックスにまるメガネ。なぜか野暮ったくて、どうしょうもなくかわいい。ほにゃほにゃ〜っとしてる。かわいい。無茶振りされて「うぇ〜〜〜!?」って感じ。白衣のポケットに手を突っ込んでブンブンしてるの可愛すぎてかわいい。初期オキソくんかわいい。ノリが悪いけどテンションが上がると歌い出すらしい。ローレンシウムにはじゃれ付いてる印象。メサイアを見つけた直後だからかずっとニコニコしてる。かわいい。ただ頭の回転は早く、メサイアのビジネス化やサマエルの思想について研究が成功した直後から言及している。でもどことなく野暮ったい。

 

②実業家オキソさん
セシウムさんはオキソさんすきすき芸人なんだけども、多分セシウムさんが好き〜〜〜!ってなったオキソさんはこの辺だと思う。頭の良さと機転を活かし、様々な業界と手を組むようになる。ローレンシウムが社長なのにオキソさんが実質のリーダーにしか見えない。(ベンゼンやフェノールに握手してもらえないからって分かりやすくしょぼんってしてるローレンシウムかわいいよ。)
誰も寄せ付けないオーラとカリスマ性を手に入れて、黙っているだけで恐怖を感じる。このころにはほにゃほにゃオキソくんは見る影もなくなり、服装も髪型もビジネスマンに傾倒する。コンタクトにしたであろうオキソさん。周りへの気遣いを忘れないけれど、自分の目的のためなら手段を選ばない冷酷さを感じさせる。メサイアが誕生した時に「敵も増える」と言っていたけれど、増えた敵からあらゆるものを守るために、人としての温度を必死に下げてるように見えた。なんで人は何かを守ろうとすると孤高を選ぶんだろうねぇ…揺れたら終わるからかな…

何回観ても鼻歌のレベルが高すぎて「!?」みたいになるの面白いけどやめたい。

 

 

③思想家オキソ
②〜③は見え隠れするけど、投獄された後のオキソは思想家オキソとして別のギアだと感じる。見た目の変化として、彼は目をほとんど開かなくなる。相手の顔を見てニコニコしてた研究者オキソくんと対極、だからこそこの時点ではオキソが目を開けてる/閉じているで意味を探してしまうわけで。
投獄されて初めてオキソの思想が吐露される。

 

 

・幸福について


絶対的な幸福とは、誰にも指示されない(外的圧力のない)選択の自由からなる。何を使うのか、誰といるのか、何をするのか、自分で選択することが幸福の大前提であり、その選択の結果が現在である。

ウランちゃん「それだと、死んでった人も選択の自由で選んだ結果だって言うの?面白い!」
ウランちゃんは無邪気さで人を殺すタイプの子だった。女優をしてても退屈なんだって。傷ついてズタズタになっている相手にも「なんで泣いてるの?」「どんな気持ち?」なんて問いかけてしまうような好奇心芝居観ててニヤニヤしちゃうタイミングでウランちゃんもニヤニヤしててつらい。

 

 

メサイアについて


メサイアを使用したこと、行為そのものが悪魔なのか/メサイアを生み出したオキソ自身が悪魔なのか』
仲間を失ったアルキンはオキソを悪魔として責め、謝罪する。しかし、オキソ自身も異変が起きるまでメサイアの毒性を知らなかったと発言し、言葉を失う。(フェノールはオキソは最初から毒性を知っていたのでは?と問い詰めるがそれは否定する。)

自己を責めて泣き続けるセシウムに「難しいことは時間をかけて考えればいい」「命を粗末にしてはいけない」と諭す思想家オキソさんかっこよすぎて無理でした。
感情の起伏がない穏やかなトーンでひたすら話続けるオキソだったが、ローレンシウムと向き合った時だけは掴みかかったり、大きい声を出す。やっぱりオキソにとってローレンシウムは、唯一のどう足掻いても揺らされる存在。しんどい。

 


・最初からオキソが全てを仕組んでいた?


実は、秘密結社であるはずのサマエルのメンバーが揃って勾留されたのは、オキソがリークしたから。改ざんすると言いながら改ざんせず真実を公表したのもオキソ。勾留施設が突然爆撃に遭い*1ローレンシウムを含む12人は脱出したのだが、その事件をきっかけにオキソの行方を知るものはいなくなってしまった。オキソは脱出口と別の方向へ一人進んでいたのだ。誰の呼びかけにも答えることなく、闇の中へ消えていった。これ、メサイアの毒性が発覚したタイミングで、全ての元凶であるオキソ自身がが消えることによって世間が責め立てる相手を抹消し、全員を生かすシナリオを周到に準備してたとしか考えられない…自分が悪魔として犠牲になることで全てを終わらせるためのシナリオだった。
オキソが最後まで目を開けないのは、あの研究者オキソくんの甘さが出てこないため、揺れを最後まで悟らせないため、呼吸が下へ下へ落ち続けるようにするため。
ウランちゃんが「この人嘘ついてないよ?目を見ればわかるもの。」って言うから余計にそう思いました(作文)

オキソくんがローレンシウムメサイアの火薬利用のやり方を教えなかったのは、腹の中ではオキソも軍事利用されるの嫌だったからなんだろうな〜〜〜〜!!!!しんどいな〜〜〜〜〜〜!!!!軍事利用が打診されたタイミングでは3つの契約全てを把握しながらも、この一番重い内容だけローレンシウムに最終決定を委ねるオキソ。正直このシーンはものすごく狡い人に見えてしまいました。ローレンシウムが本気で拒否することはやりたくなかったんだろうな。その前の2つは本気で拒否しないってわかったから、自分が手を下したんだろうなぁ。大きいことだからこそ納得して欲しかったのか、のちに起こることを予期して、相手の弱みを握っておきたかったのか。自分がYESと言わなければ、どこかで巻き返せる、そのカードを残しておきたかったのではないかと考えます。

 

・映画の存在

サマエルをモチーフにした映画を作る」「13人の使命を持った、正義の集団がメサイアを使って世界の問題を解決するようなストーリーです」物語冒頭から何度か登場する映画制作事業。映画のタイトルは最後まで明かされないが、一種のプロパガンダとしてやろうとしていたことは、ローレンシウムとオキソの会話からでも読み取れる。でもサマエルの思想の具現化、作品化は、オキソにとってものすごい大きな支えだったのではないだろうか。思想家モードに入るとオキソは、ほとんどの時間目を閉じている。終始硬い表情を浮かべ、瞼の裏にある自分の答えと周りの動きを照らし合わせながら、シナリオが狂わないように照準を合わせているような気がしてしまう。その中で数回表情が崩れる瞬間があるが、その1つが映画監督ガンマが作品の話をするところ。メサイアを発見した瞬間のような表情を浮かべて、楽しそうに話を聞いている。オキソが本当に創りたかった秘密結社は、映画の中の「サマエル」だったんじゃないかなぁ。

 

映画のサマエル(仮)の創設者はすでに亡くなっており、その意志を継いだ娘(を演じるのがウラン)が奮闘する話。オキソが用意していたシナリオにぴったりだったとしたら…?恐ろしいですね。 

 

・最後の曲


勾留事件から数年の月日が流れ、ローレンシウム/クロムは名前を変え、なおメサイア公害と向き合う日々を続けていた。他のメンバーがどのように過ごしているのかは語られない。
真っ暗になった舞台の上でオキソは、「俺は孤独な悪魔 光は似合わない/植え付けられた闇で世界を覆う/雨に打たれ/傘をさす誰かが隣にいる/それは幻」なんて歌うので体調が悪くなりました。その時は、研究者オキソくんのもしゃもしゃでした。彼は最初から悪魔なんかじゃなかったと、思います。今でもそうです。ただ、誰よりもサマエルメサイアに責任を感じていて、誰よりも頭が良くて、判断がいちいち早すぎたんです。人としての温度を無くし、メサイアに人生を狂わされたのは彼も同じなのに、苦しい。

 極論、ローレンシウムを守るためにオキソは消えた。とすら、私は思う。

 

 


まだ私は、オキソくんを幸せにしないままで終われない。天才が悪魔のマスクをつけて消えていった話になんかしたくない。まだきっと何かがあるはずだ。オキソ以外にもまだまだ、きっと。

 

サマエルは6/17まで中目黒キンケロシアターでやってます。観てくれ。

*1:これもオキソが軍事利用の見返りとして、コバルトとクロリドに依頼していた